クライアント様のご要望で、スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチを教材に取り上げたんですけど、何回聞いても感動します。プレゼンの名手と言われた方ですが、技巧にはしることなく、むしろご自身の審美眼に基づいて自分の思いを語っているから、心が揺さぶられるのだと思います。
スタンフォード大学のウェブページには、スピーチ原稿も掲載されています。
まず驚いたのは、ジョブズ氏が原稿を読みながらスピーチしているように見えて、実は原稿の通りに話していないこと。棒読みじゃないんです。特に最初のストーリーの終わりは、原稿では杓子定規なのに対して、実際のスピーチではメッセージセンテンスになっています。
原稿:
This approach has never let me down, and it has made all the difference in my life.
このやり方でダメだったことは無いし、こうしたから今の人生があるのです。
実際に話した文章:
Because believing that dots will connect down the road will give you the confidence to follow your heart even when it leads you off the well-worn path and that will make all the difference.
点がこれから歩む道でつながると信じると、自分の気持ちに従えるようになり、たとえ、人並みの人生から外れたとしても自信を持って進むことができます。これが、やがて大きな違いになるんです。
原稿の表現は、悪くないけれど、話し手の経験を述べているにすぎません。一方、変更後は、自分の経験に基づいた教訓が普遍的なメッセージとして表現されています。
原稿を書いた後でも、どんどん修正していく。自分の言いたいことをより良く表現する言葉を探し続ける。こうしてスピーチは磨かれていくんだと、感服した次第です。
もう一つ感心したのは、淡々と話していることです。話している内容は、彼の激動の人生です。浮き沈みの激しい過去を語るわけですから、いいことも悪いことも、その時の感情がこみあげて来ると思うんですけど、ちゃんとコントロールしている。だから、ウィンドウズがマックのパクリだと言って観客が大喜びしても、静かに微笑んでいるだけ。アップルを追い出された屈辱を話している時は、少し声が震えているけれど、やはり静かな声が響くだけ。そして、観衆の反応に応じて、話を進めたり間を置いたりする。名手と言われる所以です。
この15分弱のスピーチには、プレゼンテーションの基本が満載です。
1回では語り切れないから、連載しようかな?